“桜梅桃李”ありのままの自分で咲(わら)おう――多様な“私たちの性”と人権

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創価学会平和委員会主催 ドキュメンタリー映画「ぼくが性別『ゼロ』に戻るとき 空と木の実の9年間」オンライン上映会を通して
――性の多様性を巡る課題とは

  

(出典:Canva Pro)

  

制服を着る時、外でトイレに行く時、性別欄に印を付ける時――大半の人は無意識に、自分の「決められた性」を選ぶかもしれません。

しかし、その選択は決して全ての人の「当たり前」ではないのです。

男女に区別された社会で、「ありのままの自分とは?」と自身のセクシュアリティについて悩み、男女以外のセクシュアリティを選ぶ人たちがいます。

実は、その数は左利きの人の割合と同じともいわれています。

体の性、心の性、好きになる性など人によって異なり、人の数だけセクシュアリティが存在し、それは男女というたった2つのカテゴリに分けることはできません。

性の多様性について理解を深めることによって、自分自身を見つめ直し、学校、職場、家庭など身近な場所で起きている問題や課題に気づくことができるのです。

国連のSDGs推進の一環として、創価学会平和委員会は、「SDGsオンラインシネマシリーズ」と題し、オンライン映画上映会を開催しています。

第6回目として、ドキュメンタリー映画「ぼくが性別『ゼロ』に戻るとき 空と木の実の9年間」の上映会を開催しました(2022年3月)。

上映後には、性の多様性について、鳴門教育大学の眞野豊准教授にご講演いただきました。

※本記事は、上映会の内容をもとに作成しています。

ドキュメンタリー映画「ぼくが性別『ゼロ』に戻るとき 空と木の実の9年間」

  

<映画「ぼくが性別『ゼロ』に戻るとき 空と木の実の9年間」予告編>

  

本作品の主人公・小林空雅さんは、13歳の時に、心は男性で生物学的には女性である「性別不合」の診断を受けた後、20歳で性別適合手術を受け、戸籍も女性から男性に変える決断をします。

しかし、その後も抱いていた性別違和は消えることはなく、さまざまな人々との出会いを通じて、自分のアイデンティティについて問い続けます。

本作品は小林さんのこの9年間の歩みを追ったドキュメンタリーです。

作品に描かれるライフストーリーの背景には、性自認や性指向などを巡る社会の理解や環境の変化が映し出されています。

小林さんの幼少期には、「女ではないなら男」「男ではないなら女」といった二元論的意識がより強く根付いていました。

現在は、その固定的な枠組みを超えた、様々な性のあり方への理解が進んでいます。

国内外で性についての関心が高まる中、本作品は、誰もが自分らしく生きていける社会について考えるきっかけを与えてくれます。

多様な“私たちの性”と人権

<鳴門教育大学・眞野豊准教授>

  

鳴門教育大学の眞野豊准教授は、ご自身が同性愛者であることを公表し、中学校教員を務められた後、広島修道大学でLGBT学をご担当されました。

現在は、学校空間における性の多様性に関する問題について調査・分析を行い、教育カリキュラムや授業の開発、教職員研修のあり方などについても、学校現場の教職員の方々と連携を取られながら研究を進められています。

ご講演では、「多様な“私たちの性”と人権」をテーマに、次のように語られました。

――「性」(=Sexuality)を構成する代表的な要素として、「性的指向」(=Sexual Orientation)、「性自認」(=Gender Identity)、「性表現」(=Gender Expression)、「体の性」(=Sex Characteristics)があり、国際会議などの場では、これらの総称として「SOGIESC(ソジエスク)」と指し示されます。
「SOGIESC」は、全ての人が持つ基本的人権であり、これらの他にも、「性」を構成する様々な要素があります。

――社会に根付いている異性愛規範やジェンダー規範が個々人の中で内面化され、それが同性愛嫌悪やトランス嫌悪につながり、LGBTQIA+に対する排除や暴力、ヘイトスピーチなどの行動に移ってしまうのです。
どのような性のあり方を選ぶかは、個人の権利であることを認識し、自分の権利を守りながら、相手の権利も同じように尊重することが大事なのです。

――「SOGIESC」をはじめとする性の要素は、男・女という二分法で定義できるものではなく、社会や文化における“男らしさ”“女らしさ”という考え方や各人の心の様相によって異なってきます。
つまり、性は連続性のある現象であり、LGBTQIA+の他にも無数にある性のグラデーションの中に、私たちの性も存在するのです。

「差別をなくすための9箇条」

ご講演の最後に、次の「差別をなくすための9箇条」をご紹介されました。

① セクシュアリティ(SOGIESC)は人権です。
② 自分の性(生き方)を決めることができるのは、自分だけです。
③ 性は多様(グラデーション)です。
④ 性のあり方を否定する言葉を使わない。
⑤ あなたがもっている人と違うところは、あなたの長所です。
⑥ 差別の原因は、私たちの偏見です。
⑦ 「正しい知識」を知ろう。
⑧ 当事者探しは暴力です。
⑨ 学習したことを伝えよう。

全ての人が“桜梅桃李”に輝く社会に

  

(出典:Canva Pro)

  

国際社会では、2011年6月に人権理事会の場で、性的指向や性自認に関するものとしては初の国連決議「人権と性的指向・性自認」が採択され、2015年6月には、アメリカ連邦最高裁判所により同性婚は合憲と判決されました。

昨今、日本国内においても、同性婚やパートナーシップ制度、LGBT理解増進法など、性の多様性に関する様々な議論が行われています。

国際社会や日本国内におけるこれらの課題は、決して他人事ではなく、社会全体の問題であり、私たち一人一人の問題です。

SDGs17のゴールと169のターゲットの根本には、「誰も置き去りにしない」との理念があります。

本年1月に、池田大作先生が発表した平和提言には、その理念を肉付けする形で、「皆で“生きる喜び”を分かち合える社会」の建設というビジョンが提案されており、次のように綴られています。

――さまざまな脅威を克服する“万能な共通解”は存在しないだけに、大切になるのは、困難を抱える人のために自らが“支える手”となって、共に助かったと喜び合える関係を深めることであると思うのです。

性の多様性を取り巻く様々な課題についても、自分も周囲の人もありのままの姿で、共に生きる喜びを分かち合える社会というビジョンを描くことが大事なのではないでしょうか。

日蓮仏法には、「桜梅桃李」という原理があります。

それは、桜は桜、梅は梅のように、自分らしく個性を輝かせながら、自分にしか果たせない使命の種を芽吹かせ、それを存分に咲かせていくという原理です。

自分自身に内在する無意識の偏見を乗り越え、変革への行動の一歩を踏み出すことで、全ての人が“桜梅桃李”のように、ありのままの自分で咲(わら)える社会を目指すことができるのです。

参加者の「マイアクション(私の行動)」

創価学会平和委員会が取り組む「SDGs・気候危機アクションキャンペーン」の一環である、「SDGsオンラインシネマシリーズ」では、参加者の皆様に、「行動変容」の機会を提供することを目標としています。ここでは、参加者から寄せられた日常に取り入れていきたい「マイアクション(私の行動)」を紹介します。

◆自分のSNSにはいつもthey/themと名前かプロフィールの欄につけています。自分のアイデンティティやLGBTQIA+についてもっと知ってほしいからです。(20代学生)

◆私の「主人」ではなく「夫」と呼ぶように変えました。(50代)

◆住んでいる地域の「男女平等参画啓発誌」の市民編集委員として、様々なジェンダー平等について情報を発信してきました。(60代小学校支援学級補助員)

◆育ってきた環境や受けてきた教育を通して、凝り固まった偏見や概念を省みるように努力している。自然に言葉や思考の底辺に身につくまで継続していきたい。(30代運送業)

◆80年生きてきて、疑うこともなく当たり前のように受け止めてきたことに多くの問題が含まれていることに改めて気づくことができた。積極的に学び続け、これからの残された人生を生きたい。(80代)

  

<日頃から実践できる「マイアクションカード」>

  

まず行動の一歩として、「知る」こと、そして、その「学び」を日常に取り入れ、自分の「行動」としていくこと――SDGsが掲げる「誰も置き去りにしない」世界へ、一人でも多くの人が「マイアクション」を起こす機会となるよう、本シリーズは今後も継続してまいります。

※今後の開催予定につきましては、随時、聖教新聞や、創価学会公式インスタグラム等で告知いたします。

  

本記事に関してのご意見・ご感想は、創価学会平和委員会contact@peacesgi.orgまでお寄せください。
また本記事について、ツイッターやインスタグラムで『#SDGsシネマ』『#希望と行動の種子』と付けて、ぜひ身近な人とご共有ください。

  


  

  

この記事の取り組みは、以下の目標に寄与することを目指しています

●目標4.

すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

  

●ターゲット4.7

2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

●目標5. ジェンダー平等を実現しよう

ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児のエンパワーメントを行う

  

●ターゲット5.c

ジェンダー平等の促進、ならびにすべての女性及び女子のあらゆるレベルでのエンパワーメントのための適正な政策及び拘束力のある法規を導入・強化する。

●目標10. 人や国の不平等をなくそう

各国内及び各国間の不平等を是正する

  

●ターゲット10.2

2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々のエンパワーメント及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。

●ターゲット10.3

差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、ならびに適切な関連法規、政策、行動の促進などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正する。

●ターゲット10.4

税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成する。