中東のヨルダンで子どもたちの教育を支援――「音楽は私たちをつなぐ」

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人種や宗教、政治的理由による迫害や紛争から逃れ、自身や家族の命を守るため、いまこの瞬間も、多くの人々が国内外への移動を強いられています。

このように難民や避難民となった人々の数は、2022年5月時点で1億人を超え、世界の約80人に1人が居場所を追われた人々という事態です。

  

バングラデシュの難民キャンプで生活する子どもたち(国連UNHCR協会提供)

  

途上国での難民受け入れ

ある日突然、今まで通りの普通の暮らしを捨て、見知らぬ土地へ逃げることを強いられた人々は、避難先でどのような生活を送っているのでしょうか?

例えば難民の方々が暮らす家といえば、難民キャンプをイメージする人が多いかもしれません。

しかし、隣国のシリアやパレスチナなどから避難した100万人前後の難民が暮らすヨルダンでは、難民キャンプにいる人は十数万人。

圧倒的多くは、普通に都市の住民として暮らしています。

しかも、難民を受け入れている国の多くは途上国。

地域住民の皆さんも、もともとさまざまな課題を抱えている場合があり、そこへ生じる難民の流入は、課題をますます深刻なものとすることが少なくありません。

音楽教育プロジェクトがスタート

そうした中、2021年にヨルダンの地で始まったのが、音楽教育プロジェクト「音楽は私たちをつなぐ」です。

音楽を通して難民や現地の若者、子どもたちに希望と喜びを送る教育の実現を目指したもので、3年間の実施を予定しています。

音楽には、自身の感情を表現したり、立場の異なる人々と心を通わせたり、感動を味わったりと、さまざまな効果があります。

オランダのNGO「国境なき音楽家(MWB)」は、紛争の停戦後の地域などにおいて、音楽教育を通じて情操教育や民族間の融和を20年余りに渡って推進してきた実績があります。

本プロジェクトは、このMWBのほか、現地の音楽家やNGOなどに協力をいただいています。

同国では一般に小中学校などで音楽教育は行われていません。

また都市部では、2011年からのシリア危機以降、急激に難民が流入したことを受け、午前中はヨルダン人向けに、午後は難民向けに授業が行われるような学校も少なくありません。

そうした学校では授業の数や質は必ずしも十分ではなく、国語であるアラビア語、英語、算数のみが基本教科であることが多いようです。

音楽教育は一般的でない上、それを実施できる人もかなり限られています。

そのためプロジェクトでは第一段階として、そうした教育を実施できる人の育成から始めています。

2021年5月から2022年2月にかけて、オンラインも併用しながら首都アンマンで行われた研修には、音楽大学の卒業生やプロの音楽家ら約40名が3グループに分かれて参加しました。

ここでは子どもたちのストレス緩和や、困難を克服する力の養成を目指し、主にトラウマ(心的外傷)の認識やセルフケア、非暴力的コミュニケーションなどに焦点を当てたプログラムが行われました。

  

ヨルダンのアンマンで実施した研修。写真左は本プロジェクトトレーナーの一人であるタレク・ジュンディ氏


各グループの研修修了後には、実習体験として、ヨルダンの他のNGOと協力し、子どもたちのための音楽講座を各地で開催。多様な国籍の子どもや障がいのある子どもなど、計433名が参加しました。

研修修了生からは、「自分の住む地域をより良くするために何かできていることがとても嬉しいです。」といった声や、「研修で新たな教え方を学ぶことで、子どもたちについての理解が深まり、社会をよりよく理解することができました。」との感想が寄せられました。

修了生はその後、研修で得た学びを活かし、それぞれの場所で活躍しています。

  

  

昨年夏に開催の音楽講座

  

子どもたちの心に種をまいていく

2022年4月からは、ヨルダンにおいても最も脆弱な立場に置かれる子どもたちに焦点をあてた音楽療法のプログラムも追加し、2期目が開始となりました。

そうした中、同国内の音楽コミュニティーでこのプロジェクトは話題になっており、参加を望む声が多く寄せられているそうです。

プロの音楽家で、本プロジェクトのトレーナーでもあるタレク・ジュンディ氏は語ります。

「私たちの活動は種をまく作業のようなものです。

すぐには目に見える結果が表れなくても、確実に変化は生まれています。

音楽活動を通して異文化に触れたり、異なる背景や立場にある人が置かれている状況に思いをはせたりしてみる。

そうした経験や作業の積み重ねが、子どもたちの視野を広げ、良き市民へと成長していく契機となる。

その広がりが、社会を良い方向に変えていくのではないでしょうか。」
 
また、2022年1月の「SGIの日」記念提言で池田大作SGI会長はこのプロジェクトに言及。

「子どもたちの胸中にある〝心田〟に可能性の花々が咲き誇ることを信じ、祈るような思いを込めて種をまく行為に、教育の眼目はあるのではないでしょうか。」とつづりました。

一人一人の可能性を信じて他者に関わっていくことが、誰一人置き去りにしないSDGs達成にもつながっていくのではないでしょうか。

この記事の取り組みは、以下の目標に寄与することを目指しています

●目標10. 質の高い教育をみんなに
すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し生涯学習の機会を促進する

●ターゲット4.5 
2030 年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住⺠及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。

●目標10. 人や国の不平等をなくそう
すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し生涯学習の機会を促進する

●ターゲット10.2  
2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。

●目標17. パートナーシップで目標を達成しよう
持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する