人類に破滅をもたらす兵器 維持することは許されないーーセルジオ・ドゥアルテ氏

公開日:

元国連軍縮担当上級代表(パグウォッシュ会議会長) セルジオ・ドゥアルテ氏

核兵器禁止条約こそ希望の未来への道

核兵器を違法と認める初の条約が誕生することに、強く励まされる思いです。

50カ国の批准という発効要件を満たした事実自体が、この条約こそ希望の未来への道であることを、多くの国々が理解したことの現れです。

条約は特に二つの影響をもたらします。批准した国(2021年1月14日現在で51カ国=編集部注)は全てが非核保有国ですが、禁止条約は、非保有国がNPT(核不拡散条約)の下で合意した、“いかなる場合にも核兵器を保有しない”という決意と責任と義務を、より強固にするよう促します。これが第一の影響です。

そして第二に、禁止条約は核保有国が核兵器を手放す手段を提供することになります。つまり保有国に対して、秩序正しくそして安全に、核兵器を放棄する手段があることを明示するのです。

核軍縮は国連の最重要の議題であり続けている

実は、「国連憲章」は核兵器に言及していません。というのも、同憲章が調印されたのは、人類史上初の核実験が行われる3週間前だったからです。

しかしその後、国連総会は1946年1月の第1号決議で、核軍縮を国連の最優先目標に定めました。以来75年間、核軍縮は、国連の最重要の議題であり続けています。

特に、本来であれば安全保障問題を幅広く扱う国連総会第1委員会が、ここ20年間は軍縮、とりわけ核軍縮をテーマに議論してきた事実一つをとっても、国連が核兵器問題を重視していることが分かります。

また、2016年に核軍縮への多国間交渉を開始することが決議されたのが、国連総会の場であったことを忘れてはなりません。これが、翌2017年の禁止条約採択への流れを生んだのです。

今後も国連が、核軍縮への積極的な貢献を果たしてくれることを確信しています。

  

アメリカ・ニューヨークの国連本部で行われた核兵器禁止条約の交渉会議。条約採択に賛成する国々がモニターに表示されていく(2017年7月7日)

「なぜ保有するのか?」「正当な理由はあるのか?」禁止条約は核兵器の存在自体を問い直す

NPTをはじめとするこれまでの条約は、核保有国あるいは非保有国が遵守すべき義務等々を定めていますが、それらは核兵器そのものよりも、保有国か非保有国かなど、現状の「国」のあり方に焦点を当てる色合いが強いものでした。

一方の禁止条約は、核兵器の存在自体を問い直す初の枠組みです。
特定の国を名指しして何かを要求するのではなく、世界中の国々に対して一様に、核兵器は違法であり、禁止されたと認めているのです。これは歴史的なことです。

禁止条約を手にしたことで、私たちは今、全ての国にこう問うことができるのです。「なぜ核兵器を保有するのか?」「正当な理由はあるのか?」――と。これが、条約の発効がもたらす重要な議論の変化でしょう。

2017年に条約が採択されて以降、核保有国は守勢に立たされています。かつてのように、核保有を認めることを他国に強いることも、保有を自ら正当化することも難しくなっているのです。

引き続き、条約に署名し、批准する国々を増やしていくことは、目下の課題です。署名しながらも批准していない35の国々(2021年1月14日現在)を促すとともに、署名にすら達していない、他の多くの国々に働きかけねばなりません。

そして、世界を破滅へと追いやる兵器を維持し続けることは、許されないのだという大衆の声を高め、核保有国に突き付けていかねばなりません。世界の破滅からは、彼ら自身も逃れられないのですから。

SGI(創価学会インタナショナル)は「平和・相互理解・非暴力の文化」を世界中に広めている団体

ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のもとに、人道的活動に汗を流す多くの市民団体が集まり、条約の誕生を可能にしたのです。SGIはその中心的な存在でありました。

私の故郷のブラジルやアメリカ、そして日本のメンバーとの交流を通して、私は、SGIを深く理解する一人であると自負しています。

SGIは、「平和の文化」「相互理解の文化」「非暴力の文化」を世界中に広めている団体であると評価しています。とりわけ、人々の平和意識を高めるための活動を、全世界で行っていることに感銘を覚えます。

禁止条約の発効とともに、今後は、条約の意義を普及し、より多くの市民の支持を得るための活動が大切になります。その意味で、世界中にネットワークを持つSGIは、大きな役割を担うことができると確信します。

SGIの皆さん一人一人が、これまでの協働作業を継続し、この条約が普遍化されることの重要性を、語り広げていかれることを期待しています。

  

2010年5月のNPT再検討会議の折、学会青年部は「核兵器禁止条約」の制定を求める227万人の署名目録を提出した。寄託式で、ドゥアルテ国連軍縮担当上級代表(当時)らに目録を手渡す(ニューヨークで)

他の人々や国々は敵ではない より良い未来を共々に築いていく友人

日本でもブラジルでも、創価の青年たちと語り合う多くの機会に恵まれました。そのたびに、彼らがいかに熱心かつ献身的に、平和を志しているかを目の当たりにしました。池田SGI会長のリーダーシップのもと、こうした青年を育んできたSGIの努力に、深く敬意を表します。

平和の文化、相互理解の文化を広げていただきたい――これが、私から青年たちへのメッセージです。

その「文化」にあっては、他の人々や国々は敵ではありません。社会全体と地球の生態系にとって、より良い未来を共々に築いていく友人なのです。

この地球を継承するのは、若い皆さんたちです。ふがいなくも私たちの世代は、世界を平和にする挑戦に、成功したとは言えない。「戦争の文化」「兵器の文化」を生み出してしまいました。

しかし、少なくとも私たちは、平和への種をまきました。次の世代の青年たちが、その種を花開かせることを願ってやみません。

プロフィール

セルジオ・ドゥアルテ(Srgio de Queiroz Duarte)氏
1934年ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。1985年から同国大使としてニカラグア、カナダ、中国、クロアチアなどに駐在。2005年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議議長。2007年から2012年2月まで国連軍縮担当上級代表。