2024.10.03
死刑制度とは何か 「教育」と「人の命」を見つめ直す
公開日:
創価学会平和委員会主催 映画「休暇」オンライン上映会を通して
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの報告書によると、死刑を法律上・事実上廃止している国は、すでに140カ国以上に上っています。
その中で日本は、OECD加盟38カ国中、米国、韓国とともに死刑を存置している数少ない国の一つです。
しかも、米国では、連邦による死刑執行を停止中で、韓国でも1997年以降は執行が行われていないのです。
近年、世界各国が続々と死刑を廃止している背景には、死刑が、かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、裁判は常に誤判の可能性があり、もし死刑が執行されてしまうと取り返しがつかないことなどがあります。
さらに、死刑が犯罪の抑止に繋がるという証拠がないことも廃止の大きな理由となっています。
日本では、死刑をめぐる多くの事柄が一般に長らく非公開とされてきました。
そしてそれは、死刑制度の是非について判断することの難しさへと繋がっています。
しかし、死刑制度を存置することは、死刑制度が持つ〝報復の思想や、他者への見せしめの思想〟を社会全体で持ち続けていくことでもあります。
死刑制度について学ぶことは、「どのような社会を作りたいか」を考え、私たち自身の哲学や生き方を見つめ直すことにもつながるのではないでしょうか。
国連のSDGs推進の一環として、創価学会平和委員会は、「SDGsオンラインシネマシリーズ」と題し、オンライン映画上映会を開催しています。
第9回目として、映画「休暇」の上映会を開催(2022年8月)。
後日、死刑制度について、元刑務官の坂本敏夫氏が講演しました。
※本記事は、上映会の内容をもとに作成しています。
映画「休暇」
本作品は文豪・吉村昭の同名短編小説を原作に、死刑に立ち会うことになった刑務官たちの苦悩を描いた人間ドラマです。
ストーリーは、有給休暇を使い果たし、新婚旅行に出掛けられずにいた刑務官の平井(小林薫)を中心に進んでいきます。
ある日、収監中の死刑囚・金田(西島秀俊)の執行命令が下ります。
執行の際、下に落ちてくる体を支える“支え役”を務めれば1週間の休暇が出ることを知った平井は、誰もが嫌がる支え役に自ら名乗り出ます。
死刑制度とともに、命の意味、本当の幸福を問いかける内容となっています。
死刑執行の中身
<講師:元刑務官・坂本敏夫氏>
元刑務官の坂本敏夫氏は、大阪刑務所看守、神戸刑務所処遇係長、大阪刑務所処遇係長、法務省法務大臣官房会計課事務官、東京矯正管区矯正専門職を経て、長野刑務所、東京拘置所、甲府刑務所、黒羽刑務所で課長を歴任し、現在は作家やNPO団体の代表として活動しています。
講演では、刑務官時代の経験を基に、死刑制度廃止の立場から「死刑」をテーマに語りました。
死刑判決から執行まで
坂本氏:裁判所で死刑が確定すると、検察庁の長は法務大臣に死刑執行の上申をします。
あとは法務大臣が死刑執行の命令を出すだけです。
死刑執行の命令書はA4の用紙1枚で、内容はほんの数行です。
それに基づいて、執行の一週間ほど前に、法務省と検察庁から拘置所長に連絡が入り、準備を始めます。
死刑執行
坂本氏:死刑前日に死刑囚の身長、体重を確認し、刑場のロープの高さを調整します。
アメリカでは1カ月前に告知していましたが、日本では事前の告知はなく、早朝、執行の30分前頃に告知します。
執行ボタンは3人の刑務官が担います。
死刑囚が落ちる様子は見えないようになっています。
補足ですが、映画で出てくる“支え役”は実際の執行には存在しません。
執行後、死刑囚の体は激しくけいれんします。
5分ほど待ち、揺れが収まってから医師や看護師や刑務官が体を止めます。
一連の流れが終了した後に、死刑執行の発表を行います。
永山則夫元死刑囚について
坂本氏:1968年、当時19歳の永山元死刑囚(以下、永山)が米軍から盗んだ銃を使い、約1カ月で4人を殺し、翌年、永山が20歳を迎える少し前に逮捕されました。
永山とは、私も刑務官時代に面接をしました。
永山は東京拘置所で執筆活動を始め、更生を形にし、印税を使って被害者遺族に賠償し、晩年にはペルーの貧困にあえぐ子どもたちへの基金をつくるなど、刑務官たちの中でも最も更生した死刑囚と言われています。
一審の地裁で死刑。二審の高裁で無期懲役に減刑されましたが、最高裁で差し戻しされ、最終的に死刑判決となりました。
この差し戻しの過程で「永山基準」という死刑判決に関する9つの基準が生まれました。
これは裁判所の意向でつくられた基準であり、未成年でも死刑にできる理論となっていて、現在でも、成人を含めた死刑判決に影響しています。
死刑囚の生活
坂本氏:死刑囚は起床、昼食、夕食、就寝の時間が決まっています。
主に生活は3畳の独居房で過ごします。
全館空調設備が整い、奥の窓は開きません。
窓の外は刑務官の視察する通路で、目隠しがあるため部屋からは空しか見えません。
平日は屋外運動ができる空間で30分程度の時間が与えられます。
入浴は1回15分程度で、夏季は週に3回、その他期間は2回与えられます。
死刑囚と刑務官の関係
坂本氏:日々、生活の面倒を見て、相談事を聞くのが舎房担当の刑務官です。
死刑の執行にあたる職員はほぼきまっていますが、執行ボタンの担当刑務官は順番です。
そして、最も死刑囚と近い位置にいるのが、面倒を見る刑務官(東京拘置所では警備隊というポスト)です。
警備隊は死刑囚と毎日、顔を合わせ、身体チェックではぬくもりを感じます。
死刑囚から相談をされることも多く、次第にフレンドリーな関係になります。
その警備隊が死刑執行時には、死刑囚を連行し、手錠をかけ、足を縛り、刑壇の上に立たせ、動かないように抑え、執行後にはロープを外して棺の中に遺体をいれます。
警備隊はこれを毎回経験します。
刑務所長の思い
坂本氏:1907年に今の現行刑法ができましたが、当時、法律をつくる時に現役の刑務所長たちに死刑制度について意見を聞いています。
ほとんどの刑務所長は「死刑は必要ない」と証言しました。
現在でも「受刑者、犯罪者を更生させる立場の人間を信頼してほしい」との思いから、ほとんどの刑務所長は今も昔も「死刑は必要ない」と考えていると思います。
袴田事件について
坂本氏:東京拘置所で死刑囚との面接を繰り返す中で、最も印象深かったのは袴田巌さんです。
彼を初めて見たときから態度も含めて「これは人を殺す顔じゃないな」と思いました。
静岡地裁で再審が認められ釈放された時は本当にうれしかったです。
しかし、東京高裁で、再審判決を認めない決定が出て、最高裁で審理が続いていますが、今でも死刑囚の立場のままです。
講演会を終えて主催者から――SDGsと死刑
世界人権宣言には「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する 」と記されています。
また、1989年には国連総会において死刑廃止条約が採択され、また、死刑確定者の処遇問題については、国連経済社会理事会による「死刑に直面している者の権利の保護の保障の履行に関する決議」が日本を含む国連総会出席加盟国の全会一致で承認されました。
SDGs17のゴールと169のターゲットの根本には、「誰も置き去りにしない」との理念があります。
社会学者のブライアン・ウィルソン氏との対談集で、池田大作先生は次のように語っています。
――私は生命は尊厳なものであって、誰びともこれを奪う権利はないとの信念から、死刑は廃止すべきであると考えています。尊厳なる生命を、生命以外のもののために手段化すべきではありません。(中略)また死刑には、殺されたことへの報復の思想や、他者への見せしめの思想があるように思います。私はこのような思想には、断固として反対します
創価学会の信奉する日蓮仏法では万人に「仏性」という尊極の生命境涯が備わっていると説きます。
それを開き現す無限の可能性を奪ってしまう権利は、誰人にも、またどの国家にもないとの立場から、創価学会は、一貫して死刑廃止を主張してきました。
講演会の最後、坂本さんは「死刑制度はなくせるのか?」という問いに、(死刑制度廃止のために)「教育」と「人の命」を見つめ直していくことが重要であると語りました。
SDGsでも示されている人間の尊厳や人権が尊重される社会を目指す上で、死刑廃止は、そのための重要な基盤になるのではないでしょうか。
※今後の開催予定につきましては、随時、聖教新聞や、創価学会公式インスタグラム等で告知いたします。 本記事に関してのご意見・ご感想は、創価学会平和委員会【【contact@peacesgi.org】】までお寄せください。また本記事について、ツイッターやインスタグラムで『#SDGsシネマ』『#希望と行動の種子』と付けて、ぜひ身近な人とご共有ください。
この記事の取り組みは、以下の目標に寄与することを目指しています。
●目標16. 平和と公正をすべての人に
持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する