気候危機の解決へ、地球規模の連帯を——COP28を解説

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近年、気候が変化しつつあることを多くの方が感じているかと思います。一方、世界ではさらに深刻な問題が生じているのをご存知でしょうか。

世界気象機関(WMO)は、2023年は世界の平均気温は産業革命前と比べて約1.45℃上昇し、史上最も暑い年となったと発表しました。地球温暖化の影響により、世界各地で気候変動の被害が頻発化、激甚化しています。リビアでは同年9月、大雨の影響で上流の2つのダムが相次いで決壊し、洪水により1万2千人以上が亡くなりました。また、カナダ、ハワイ、ギリシャ等で過去最大規模の森林火災が発生。エチオピア、ソマリア、ケニア等の「アフリカの角」と呼ばれる一帯は、直近40年で最悪の干ばつに見舞われました。これらの現象には、気候変動が大きく影響したとみられています。

こうした自体を受け、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警鐘を鳴らしています。

COP28がドバイで開催

国連の気候変動の会議「気候変動枠組条約締約国会議」(COP28)が、2023年11月30日から12月13日にかけて、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにて開催されました。

各国政府の代表だけではなく、世界中から企業や学者、市民社会の代表などを含め、延べ10万人が参加しました。創価学会インタナショナル(SGI)についても、日本のほか、イギリス、イタリア、インド、スイスのメンバーが参加。青年、信仰、教育、防災などのテーマで活発に活動しました。

  

COP28会場(ドバイ、アラブ首長国連邦)

COPとは

気候変動という地球規模の課題解決に向けて、気候変動枠組条約(UNFCCC)が1992年に採択され、1995年から毎年、締約国会議(COP)が行われています。気候変動の対策は大きく分けると、①地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を削減する「緩和」と、②既に生じている、あるいは今後予測される気候変動の影響による被害を軽減させる「適応」があり、COPではその両面が議論されています。

2015年のCOP21で採択された「パリ協定」は、「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて1.5度以内に抑える」との国際目標とともに、その達成に向けて世界全体の対策の進捗を評価する「グローバル・ストックテイク(GST)」を5年ごとに実施することを定めています。GSTは、今回のCOP28において初めて実施されました。

化石燃料からの脱却

GSTの焦点の一つは、エネルギー源の転換でした。交渉は難航しましたが、合意文書では、温室効果ガス排出の大きな原因となっている石炭、石油、天然ガス等の化石燃料について「脱却を進め、この重要な10年間で行動を加速させる」と初めて言及されました。これについてUNFCCC事務局のサイモン・スティル事務局長は「化石燃料の終わりの始まり」と述べました。また、「2030年までに再生可能エネルギーの設備容量を3倍、エネルギー効率を2倍にする」との目標が掲げられるなど、エネルギーの転換に向けて前進する結果となりました。

ただ、1.5度目標の達成に向けては、化石燃料の利用の公正な形での廃止など、より具体的な議論と実行が求められています。

また今回の会議では、COP27で設立が決定された、気候変動により既に起きてしまった”損失”と”損害”を補償するための「基金」の具体化について注目が集まりました。議論が難航すると見込まれていましたが、会議初日の11月30日に合意が成立しました。日本や議長国のUAEを含む国々が同基金への資金拠出を表明。条件付きで世界銀行のもとに、気候変動に特に脆弱な途上国への支援を目的とした基金の設置などが決定されました。

  

COP28の会議の様子

ユースの参画に関する議論

近年のCOPには世界中から多くのユースが参加し、気候危機の現状を訴え、世界の指導者たちに迅速な行動をとることを強く求めています。今回も場内の各所でユースが、会議での発言に加えて、外交団との交渉や各種のパフォーマンスを実施していました。

  

そもそも、各国での気候変動問題の議論にユースがどれだけ参画できているかを見ることも、GSTの一環に位置づけられていました。そのプロセスは「ユース・ストックテイク」と呼ばれています。一部の国では、国会などの場でユースによる発言の機会を設けたり、あるいは政府がユースを招いての審議会のようなものを実施しています。例えばオランダでは、青少年環境評議会(Jongerenmilieuraad)が2021年に設立され、多くの若者がインプットを提供しています。政府は今後数年間、助成金を出し、さまざまな背景を持つ若者からの意見を継続的に反映できるようにしています。


UNFCCCの公式な児童・青年の委員会である「YOUNGO」は、その進捗測定結果を示す報告書発表会をCOP28の中で実施。その国際委員の一人として、イギリスSGIのルーシー・プラマー学生部長が登壇し、これまでの調査や議論の結果を踏まえ、報告書の概要を発表しました。ここでは、青年の参画が進んでいる国の事例などを踏まえ、SNSを活用した意識啓発や、国際会議等への青年世代の代表団派遣などを通じて、青年の参画をさらに進めるべきであると訴えました。

  

「ユース・ストックテイク」の公式発表会で、ルーシー・プラマー イギリスSGI学生部長が登壇


またイタリア・パビリオンでは、対話イベント「気候変動対策と地球の保全に向けた対話と新たな経験」をイタリア創価学会が国連開発計画(UNDP)などと共同で開催しました。イタリア創価学会は、気候変動問題に取り組むユース支援のためのイタリア政府およびUNDP主導の国際イニシアチブである「ユース・フォー・クライメート」を支援しています。

イベントでは、同イニシアチブを通じてアフリカで活動する若者3名や、アゴスティーノ・イングシオUNDP気候対策ローマ・センター調整官、国際熱帯木材機関(ITTO)のシャーム・サックル事務局長等が登壇し、「理解を広げ、社会を大きく変えるような流れを作るには、どうすればよいか」や、「変革は可能であるとの希望を広げるにはどうすればよいか」といったテーマについて、市民社会やユースの観点から議論を交わしました。また席上、気候危機に立ち向かうためにイタリア創価学会が新たに始めたキャンペーン「私が変われば、世界が変わる」が紹介されました。

  

イタリア創価学会および国連開発計画(UNDP)によるイベント(イタリア・パビリオンにて)

気候正義の推進に向けた宗教間協力

COP28では、国連環境計画(UNEP)の「地球のための信仰」イニシアチブとイスラム長老評議会によって、「信仰パビリオン」が初めて開設されました。信仰を基盤とした団体(FBO)や宗教リーダー、国連高官や有識者、また先住民の代表などが集い、気候変動対策における宗教者や信仰の役割について、さまざまに議論がされました。

同パビリオンが設置されたこと、またそこに、宗教関係者のみならず多様な人々が集い議論を行ったことは、この議論における宗教および宗教者の関与の重要性を物語っているものと思われます。

  

同パビリオンでのイベントでは特に、SGIも賛同をしている「化石燃料不拡散条約」という考え方や、”気候正義”について強調されました。後者は、気候変動の原因となる二酸化炭素をこれまであまり排出してこなかった、グローバルサウスや島国に暮らす人々が、気候変動による影響を最も受けていることを問題視する考え方で、COPの場では頻繁に話題になります。そして多くの信仰者は、それを看過できないと訴えています。

防災の議論

気候変動による被害への「適応」の分野において、重要なテーマの1つが防災です。2022年に開催されたCOP27では、2027年までに全世界に、災害のリスクを迅速に伝える「早期警戒システム」を普及させるとの目標が掲げられました。

COP28でSGIは、防災に関する複数のイベントを開催。その中で、NGOのグループとして日本国内で行った調査の結果を紹介するなどしました。

  

日本は同システムが世界でも最も普及している国で、近年の災害でも一定程度機能しています。天気予報は年々精密化し、また警報がメディアやSNSを通じて発信されています。一方で、警報が出ても避難しない人や、できない人が少なからずいることもわかっています。そのあたりの原因を探った調査を宮城県と熊本県で行い、提言をまとめました。


調査でわかったことの1つは、警報システムといっても避難プロセス全体の一部であり、避難所の環境の整備や、地域コミュニティでの連携など、プロセス全体が充実していないと、警報システムも十分に機能しないということでした。

COP28でのイベントにおいては、同システムを改善させる、あるいはこれから導入させるという国からの代表も多くおり、調査結果は大変参考になる、との声が寄せられました。

  

防災に関するイベント(信仰パビリオン)

最後に

気候変動問題は今なお、一刻の猶予も許されない状況が続いています。学会・SGIは信仰を抱く者としての使命感、またその独自の役割をあらためて自覚して、さらに行動してまいります。

  

この記事の取り組みは、以下の目標に寄与することを目指しています。

●目標13. 気候変動に具体的な対策を
気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る。