2025.11.07
遥かなる法華経の旅 平和と共生のメッセージ
公開日: 更新日:
法華経が現代の社会に投げ掛けるメッセージとは何か。砂漠の大ギャラリー、敦煌に残る仏教美術の映像を通して考える。
インドから敦煌を経て、シルクロードを旅して日本に伝えられた「諸経の王」法華経。その特徴とされる「七つの譬喩」を概説し、法華経の精神が日蓮大聖人、さらには創価学会に伝えられていることを解説する。
※本記事は、動画の内容を抜粋し記事にしたものです。
東と西の文明を結んだ道“シルクロード”
地中海から中央アジアを経て、日本にまで達する道だった。
絹や宝石、ガラス製品などの物資だけではなく、シルクロードの旅人によって、芸術や思想も運ばれていった。
インドで生まれた大乗仏教も、シルクロードを渡って日本に伝えられた。
人々はなぜ、道なき道を越え、この経典を伝えようとしたのだろうか。
そこには、どんな思想が秘められているのだろうか。
それを探る旅に出てみよう――。
中国の北西部にある敦煌。
かつてシルクロードの分岐点として栄えたオアシス都市だった。
敦煌とは、「大きく輝く」という意味。
東西の宗教や美術、知識がここで出会い、文化の花を大きく咲かせていた。
莫高窟。
ここに中国やインド、中央アジアの芸術家たちが訪れ、四世紀中頃から、およそ千年もの長きにわたって、仏教美術を創造した。
今なお現存する数百もの石窟は、まさに砂漠の大ギャラリーである。
敦煌研究院考古研究所 劉永増所長
敦煌の仏教は、民衆の仏教であり、私たちは庶民の仏教と呼んでいますが、一般庶民がとても強い宗教心でこの洞窟を守ってきました。
ある窟では、十数代にもおよぶ家族が代々、洞窟の修復にあたった。
また、ある窟では、1千人以上の人間が自らのわずかなお金を持ち寄り、洞窟を堀り、仏教美術を創り上げた。
莫高窟に描かれた法華経変。
経変とは、経典に説く仏の世界を理解しやすいように絵画化したものを指す。
八万法蔵と称される数多くの経典の中でも、法華経は諸経の王とされる。
敦煌研究院考古研究所 劉永増所長
敦煌の蔵経洞といわれる窟から出土した古代の経典は、どの経が最も多いのかといえば、法華経の数量が最も多いと言えます。
この事実から、当時、最も多くの人々の心を動かし、影響を与えてきた経典が法華経であったことが伺える。
釈尊がインドで説いた仏教。
その教えは弟子たちによって整理されたが、当初は文字に書き残すのではなく、人の口から口へ、口伝の形で伝承されていった。
釈尊の滅後、数世紀がたってから、その思想は文字で表されるようになり、大乗経典の中心である法華経もこの時期に成立した。
法華経は仏教の伝播とともに各国の言語に訳されていく。
その中にあって、西暦406年、インドの鳩摩羅什が中国の言葉に訳した『妙法蓮華経』が、法華経の最高の名訳として知られている。
敦煌研究院考古研究所 劉永増所長
法華経の流布は、鳩羅摩什の翻訳と非常に大きな関係があります。鳩羅摩什の翻訳は、当時の人々に大変理解しやすかったのです。この翻訳は多くの人が書写しました。こうして法華経は広い地域に大変なスピードで流布されていったのです。
八巻二十八品から成り立っている法華経。
この中にどのようなメッセージが込められているのだろうか。
法華経には様々な譬え話が登場する。
その代表が有名な七つの譬喩。
こうした絵画的表現が多いのも、法華経の特長である。
法華経英語版の翻訳者、バートン・ワトソン博士はこう分析する。
翻訳家 バートン・ワトソン博士
法華経についてですが、特に七つの譬えが文学的にも非常に素晴らしく魅力的だと思います。これによってこの経典のメッセージが、私たちの生活の中で非常に具体的になり、現実味を帯びてくるのです。
そういう意味で、非常に非凡な譬喩を使った、文学的、絵画的な要素がこの経典の主なる魅力だと考えています。
三車火宅の譬え。
ある国の長者の家に火事が起こる。
遊びに夢中で逃げようとしない子供たちに、長者は門外にある三車――。
羊の車・鹿の車・牛の車をあげようと誘うと、子供たちは喜び勇んで、火宅から出てきた。
長者は約束した車よりもはるかに立派な大白牛車を与え、子供たちは大喜びした。
長者は仏、火宅は煩悩の世界、子供たちは一切の衆生を示し、三車とはそれぞれ声聞・縁覚・菩薩の教えを意味する。長者が大白牛車を与えたことは、仏の真意が、成仏するための唯一の法・一仏乗の教えを与えたことを表している。
化城宝処の譬え。
宝を求めて、険しい旅路をいく一行がいた。
途中で疲れ果てた人々は「もう戻る」と言い出した。
そこで指導者は神通力で幻の城、化城を作り出し、「あそこまで行けばゆっくり休める」と励ました。
一行が前進し、化城で疲れをとったあと、指導者は化城を消して、また励ました。
「さあ、行きましょう。宝のある場所は近くにあります」そして、みなを目的地へと導いたのである。
この譬えは、法華経以前の教えが法華経の悟りに達するための方便の教えであることを表している。
良医病子の譬え。
ある時、良医が帰宅すると、彼の子供たちが毒を飲んで苦しんでいた。
良医は最高の薬を与えたが、すでに毒気が深く入っていたため、薬を信じないで、飲もうとしない子供たちもいた。父はこの子らを憐れみ、「良い薬を置いておくから飲みなさい」と言い残して、いったん外出した。
そして使いの者を送り、「父親が出先で死んだ」と告げさせた。父の死を聞いた子供たちはみな毒気も忘れ、嘆き悲しんだ。
今は父の形見となった薬を飲むと、たちまち病が癒えた。それを聞いて父はまた帰ってきたのである。
仏を父である良医に譬え、衆生を子供たちに譬え、仏が入滅することは、衆生に求道心をおこさせるための方便であることを表している。
また、本来だれにも仏界があり、この宝を開けば仏になれることを譬えた「長者窮子の譬え」。
自身の内に仏界があることに気づかない凡夫を譬えた「衣裏珠の譬え」。
仏が爾前教を説く間、実教を説かなかったことを譬えた「髻中明珠の譬え」なども登場する。
インド文化国際アカデミー 理事長 ロケッシュ・チャンドラ博士
法華経におけるもう一つのポイントは、仏は誰に対しても常に平等であるということです。法華経の中では雨がどこにでも降り注ぎ、広がっていく様子がよく描かれています。
仏教の平等観を示した『三草二木の譬え』。
雨が大地を潤す時、多くの草や木に一様に降り注ぐように、個性が異なる人々に対しても、仏の教えは、あまねく平等に行き渡るということを示している。
創価大学教授 菅野博史氏
これは、さまざまな差異や相違性を超えて、人類が、共に生きていく、人間はそれぞれの多様性を、尊重しながら、開花していけるというメッセージを読みとることができると思います。
法華経のもつ最重要のメッセージは、全ての人が仏の境涯をひらけるとの万人成仏の思想である。
敦煌研究院考古研究所 張元林主任
これまで、仏教では、女性は成仏できないと説いていました。しかし、法華経では、女性が、その身のまま、成仏できると説いており、女性信徒にも成仏への道が開かれたのです。
もうひとつ重要なことは、悪人の成仏を説いていることです。ある種、広い成仏論なのです。このことは、法華経が広く流布(るふ)した要因の一つです。
創価大学教授 菅野博史氏
法華経において万人成仏の思想が、説かれているということは、仏教の真の目的を明らかにしたということになるんですね。「経王」、「諸経の王」とも言われますし、また、釈尊の出世の本懐を説いた経、すなわち、この世に出現した目的を明らかにした経と言われる所以であると思います。
中国、朝鮮をへて、仏教は6世紀の日本に伝来した。
華やかな平安文化にも、法華経は多大な影響を与えたといわれる。
鎌倉時代に日蓮大聖人は、法華経の精髄を『南無妙法蓮華経』の題目に表し、新しい独自の法門を打ち立てた。
そして、この題目を弘めゆく人々こそが、万人を救おうとの仏の願いを受け継ぐ、地涌の菩薩であると説いた。
創価大学教授 菅野博史氏
日蓮の法華経の受容の特徴は、地涌の菩薩の思想を見い出したことだと思います。
法華経従地涌出品第十五。釈尊は自分亡き後、法華経を広める使命の菩薩達を呼び出す。
突然、大地が震動し、亀裂を生じ、その裂け目から無量の光明に包まれた、無数の地涌の菩薩が、見事な団結の陣列で登場する。
創価大学教授 菅野博史氏
どんなに優れた思想があっても、それを実践する人がいなければ、絵に描いた餅ですね。
法華経の場合、一仏乗の思想、万人成仏の思想を広く訴えていく姿は、釈尊滅後の時代においては、地涌の菩薩の継承する仕事なんです。
インド文化国際アカデミー 理事長 ロケッシュ・チャンドラ博士
私は菩薩というのはすべての時代に出現すると深く確信しています。
私たちの時代は、それが池田SGI会長であり、会長は菩薩たちの偉大なる伝統と使命を遂行されているのです。
日蓮大聖人が蘇らせた“法華経の精神”。
創価学会は、池田SGI会長を中心に、一人ひとりが地涌の菩薩の使命を自覚し、世界中にその精神を広めてきた。
インド文化国際アカデミー 理事長 ロケッシュ・チャンドラ博士
法華経には3つの宝があります。法華経を創造的に翻訳した鳩摩羅什、永遠の輝きを与えた日蓮大聖人、そして、法華経を生きた宗教として、現代に展開した、池田SGI会長です。
池田SGI会長は語っている。
「法華経」に説かれる宇宙大にして荘厳なる宝塔とは、全ての人々の本来の姿に他ならない。
その本有の尊厳に目覚めた人は、どんな脅威が襲いかかり、試練に見舞われようと尊厳を壊されることは絶対にない。
人はいかに生きるべきか。
その本源的な知恵を人々は法華経に求めてきた。
価値ある未来を創造する永遠の経典、法華経――。
あの山の向こうへ、あの砂漠の先へ、法華経を届けたい。
シルクロードの旅人の願いは、今も形を変えて生き続けている。
