松下幸之助氏と池田大作先生の対談集『人生問答』

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“経営の神様”といわれた松下電機産業(現在のパナソニック)の創業者である松下幸之助氏と池田大作先生の対談集『人生問答』を紹介します。

『人生問答』 松下幸之助 池田大作
『人生問答』(聖教文庫)

  

二人の出会いは1967年、創価学会が主催した「東京文化祭」に松下氏が来賓として出席したのがきっかけでした。

以来、定期的に懇談を重ねるようになり、対談回数は30回にも及びました。さらに聞きたいことや回答を往復書簡の形でやりとりを重ねます。その数、それぞれ150問(計300問)。うち3分の1ほどが1974年から1975年にかけて新聞社系週刊誌で連載されました。

日本を代表する企業経営者と宗教指導者の対談集

本書はそこに収録されなかった分のやりとりを含め、1975年に書籍化されたものです。形式は、片方が質問項目を示して相手が答える一問一答形式になっています。

全11章からなり、「人間について」「豊かな人生」「宇宙と生命と死」「繁栄への道」「宗教・思想・道徳」「政治に望むこと」「社会を見る目」「何のための教育か」「現代文明への反省」「日本の進路」「世界平和のために」と幅広い分野に目配りがなされています。

松下氏は9歳で奉公に出て一代で世界的大企業を築き上げた日本を代表する企業経営者です。一方の池田先生は宗教指導者。松下氏が80歳、池田会長が47歳のころであり、お互いの得意分野や人生哲学をめぐり、謙虚で、率直なやりとりが展開されています。

「素直な心」によって人間は正しく強く聡明になる

松下氏の発言で印象的なキーワードは、「人間にとって一番大事な心の在り方をあらわすもの」としてあげられる「素直な心」です。それは単なる柔順な心を意味するものではなく、本人の言葉でいえば、「素直な心になれば物事の実相がわかり、素直な心によって人間は正しく強く聡明になってくる」と説明しています。

ちなみに池田先生は1988年の第1回青年部幹部会のスピーチなど、たびたびこの「素直な心」を紹介しています。

現代にこそ必要とされる二人の哲学

「次の世に生まれるとしたら」との池田先生の質問には、松下氏は「政治を志すのではないかと思う」と答えているとおり、晩年、松下氏は松下政経塾を設立し、多くの政治家を生み出す流れをつくりました。それだけに第6章の「政治に望むこと」も興味深い内容です。ちなみに「歴史上の偉大な政治家」を尋ねられた池田先生は、民主主義の精神を貫き、奴隷解放を宣言したリンカーンをあげています。

1975年に発刊された本書ですが、「日本民族の特質」、「日中友好の姿勢」など、むしろ40数年後のいまの時代にこそ当てはまる指摘もあり、二人が描いた未来像や哲学に驚かされます。貴重な智慧と啓発の詰まった対談集です。

  

【対談者紹介】 松下幸之助

1894年(明治27年)、和歌山県に生まれる。松下電器産業の創業者。

社会活動の面でもPHP研究所をはじめ、松下政経塾や、科学の進歩に大きく貢献した人に与えられる日本国際賞などを創設し、人材の育成に尽力。

『人間を考える』『商売心得帖』など著書多数。1989年(平成元年)没。