2026.05.22
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ジェンダー平等のためのメルボルン宣言(仮訳)
公開日:
説明責任・権利・そしてジェンダー平等の未来に向けて――エコシステムの再構築
【宣言の要旨】
世界各地で、人権をめぐる状況が悪化しています。女性やジェンダー多様な人々の権利は脅かされ、市民社会への抑圧は強まり、紛争や気候変動が人々の生活を直撃しています。経済的不平等も拡大の一途をたどっており、こうした危機は互いに絡み合いながら深刻さを増しています。
メルボルン宣言は、ジェンダー平等を単独の政策課題としてではなく、人権・民主主義・平和・経済正義・環境正義を結ぶ「社会変革のプロジェクト」として位置づけています。不正義の影響を最も強く受けてきた人々の声と経験を社会の中心に据えることが、真の変革につながるという考え方です。
宣言はまた、国家が人権を守る責任と説明責任を果たすことを強く求めています。差別や軍事主義、不平等を生み出す構造そのものに向き合い、連帯と人権を基盤に、すべての人が尊厳をもって生きられる社会を築くことを訴えています。
「誰のための社会をつくるのか」――この宣言が投げかける問いは、いま最も問われなければならない問いでもあります。
【宣言の全文】
私たちが目指すのは、国家がすべての人の人権を尊重し、守り、実現する世界です。その世界では、フェミニスト運動や市民社会の組織が、国家に説明責任を果たすよう求めるための資源・活動空間・社会的正当性を十分に備えています。また、ジェンダー平等の実現を支える多様な団体や運動、制度(以下「ジェンダー平等エコシステム」)が、資源と影響力を結集してその取り組みを後押ししています。
私たち――このエコシステムを構成する署名者一同――は、すべての人々と地球に対する国家の人権上の義務を、自らの活動の中心に置くことをここに誓います。
その義務には、必要不可欠な公共サービスの提供、身体の自己決定権の尊重、暴力や差別からの自由の保障、開かれた民主主義の維持、そして国際法・国際協定・国際規範に定められたあらゆる基本的人権の実現が含まれます。私たちは、これらの権利がさらに拡充されることも支持します。
私たちは、活力ある進歩的な地域・国内の市民社会が、国家に人権上の義務を果たすよう求めるうえで不可欠な存在であり、人々が組織化し、声を上げ、変革を求めるための重要な基盤であることを認識しています。また、国家には、こうした運動や市民の声に応え、説明責任を果たす義務があることも認識しています。
私たちは、国家と人々とのこの関係を支えることを活動の土台とし、国家に説明責任を求めるとともに、社会正義が実現される条件づくりに取り組むことを約束します。その第一歩として、あらゆる少女、女性、そしてジェンダー多様な人々を含む、不正義や複合的・交差的な不平等の影響を最も強く受けている人々の優先課題、知識、言語、そして政治的な要求や目標を中心に据え、それらに必要な資源を配分していきます。
●なぜ今、この宣言なのか
私たちは今、ジェンダー平等の実現に関わる多様な主体や制度から成るエコシステムそのものが危機に直面している時代に、この宣言を発します。
各国政府や政治勢力は、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)、身体の自己決定権、民主的権利、市民社会の活動空間を含む人権を、積極的に後退させ、軽視し、弱体化させています。同時に、気候危機、生物多様性の喪失、戦争、ジェノサイド、そしてファシズム的な政治潮流が広がるなかで、多くの少女や女性が、貧困や社会的地位、あるいは生き延びるための行為そのものを理由に犯罪者扱いされています。
国際的な多国間システムは攻撃にさらされており、反人権勢力はそれらの場を利用して自らのアジェンダを推し進めています。拡大する権威主義、原理主義、ファシズムは、進歩的な市民社会と説明責任の仕組みを弱体化させることを目的としています。
また、世界経済システムは各国に債務負担と緊縮政策を課しており、その結果、一部の国々では、たとえ政治的意思があったとしても、公共サービス、開発、そして人権の実現に十分な投資を行う能力が制約されています。さらに、多くの国家が、人々の権利やニーズへの投資よりも、戦争と軍事化にますます多くの資源を注ぎ込んでいます。
このような時代だからこそ、私たちは変革に向けた長期的な戦略のもとに結集しなければなりません。
●何を変えなければならないのか
私たちは、ジェンダー平等、フェミニスト運動、子ども・若者の権利、気候正義、障がい者の権利、性的指向・性自認・性表現・性的特徴(SOGIESC)に関する権利、人種的正義、先住民族の権利など、多くの分野において勝ち取られてきた前進と成果を称え、その意義を深く認識しています。
しかし同時に、こうした取り組みが展開されてきた場そのものが、植民地主義、人種主義、新自由主義の歴史によって形づくられてきたことも認識しています。資金提供者、慈善財団、国際NGO(INGO)、そして多国間システムは、人々よりも資金提供者に対する説明責任が優先される仕組みを構築し、それを維持してきました。また、慈善活動そのものが、支援の対象とする人々に対して十分な説明責任を果たしてこなかった側面もあります。さらに、国際NGOは、必要不可欠なサービスの提供や人権の実現において、本来国家が果たすべき役割をあまりにも頻繁に代替してきました。
要するに、ジェンダー平等エコシステムを形づくってきた既存の仕組みは、今まさに揺らぎ、崩れつつあります。そしてそれらの仕組みは、思春期の少女、女性、ジェンダー多様な人々をはじめとする多くの人々のために、必ずしも機能してきたわけではありません。
しかし、この危機は同時に機会でもあります。今こそ、すべての人の不可侵の人権を基盤とし、人々を中心に据えた、脱植民地主義的な新たな仕組みへと全面的に転換するときです。そして、その再構築の中心には、フェミニスト運動と地域に根ざした市民社会が置かれなければなりません。
●私たちの誓い
①国家の義務と公共への説明責任を軸に活動を進めます
私たちは、国家がその責任を果たせる条件を整えること、そして人々、市民社会、社会運動が、国家に対してすべての人々と地球の権利を尊重し、保護し、実現するよう求められる環境をつくることに、自らの役割の重点を置きます。
私たちは、この転換には時間を要することを理解しています。現実には、国家による差別、必要なサービスの不提供、あるいはすべての人々に奉仕しようとする意思の欠如によって、多くの人々が国家から必要不可欠なサービスを受けられていない、または受けることができない状況にあります。
②集団的な声と社会正義が力を発揮できる条件を築きます
私たちは、地域に根ざした市民社会が十分な資源を得て、政治的に保護され、世界的なネットワークとつながりながら、地域の人々に根ざして活動できるよう取り組みます。
また、不正義の影響を最も強く受けている人々の優先課題、知識、言語、そして政治的な要求や目標が、私たちの活動の方向性を形づくるよう努めます。私たちは、自らの活動が社会正義運動や、変革を可能にしている当事者コミュニティーによって方向づけられ、またそれらに対して説明責任を負うべきであることを確認します。さらに、構造的な不平等やアクセスの障壁を取り除き、不公正な権力構造に挑戦し、すべての人々の人権を擁護するために取り組みます。
③不平等を深め、人権を損なう不公正な経済システムに立ち向かいます
現在の世界経済システムは、資源や労働の収奪と富の集中の上に成り立っており、不平等を拡大させ、環境や生態系への損害を深刻化させています。私たちは、債務負担、緊縮政策、そして不平等をさらに深める国際金融ルールや経済システムに異議を唱えます。これらは、国家が必要不可欠な公共サービスを提供し、人権上の義務を果たす能力を損なうだけでなく、人々と地球の健やかな暮らしを脅かしています。
④地域の優先課題と人々への説明責任を軸に制度を変革します
私たちは、資金提供者の期待や優先順位、評価指標、成果物、報告サイクルによって規定される従来の仕組みに異議を唱えます。私たちの活動は、国家および多国間機関に説明責任を求めるとともに、地域の人々自身が定める優先課題、社会運動のリーダーシップ、そして人々、市民社会、不正義の影響を最も強く受ける当事者に対する説明責任を基盤として進められるべきです。
⑤軍事主義に反対し、平和と正義のために連帯します
私たちは、戦争の常態化に加担すること、および少女、女性、ジェンダー多様な人々の権利が紛争や暴力を正当化する手段として利用されることを拒否します。また、男性や少年を戦争の担い手として動員するために軍事化された男性性が利用されることにも反対します。そのような仕組みは、戦争における性的暴力の利用を含め、あらゆる人々に深刻な被害をもたらす構造を生み出しています。私たちは、軍事主義ではなく平和と正義に根ざした社会の実現を目指し、連帯して行動します。
⑥連帯に根ざした変革を進め、抑圧の構造を解体します
長年にわたり、ジェンダー平等エコシステムの多くは、資金配分、議題設定、意思決定における階層構造を生み出す慈善・援助モデルのもとで運営されてきました。しかし、連帯とは、私たちが互いに深く結びつき、相互に依存する存在であることを認識することです。
私たちは、社会運動や国境を越えた連帯を活動の基盤とし、世界人口の多数を占める「グローバル・マジョリティー」を中心に据えます。そして、家父長制、性差別、年齢差別、女性嫌悪、人種主義、資本主義、同性愛嫌悪、トランスフォビア、能力主義、植民地主義をはじめとする、あらゆる形態の差別や抑圧の構造の解体に貢献します。これらの抑圧の仕組みは、私たち自身の分野や組織の内部にも存在し、人々から権利を奪い、正義の実現を妨げています。私たちは、それらにも正面から向き合い、変革に取り組みます。
●私たちが築こうとする世界
それは、すべての人が、清潔で健康な環境への権利、身体の自己決定権、そして暴力、差別、強制からの自由を含む、あらゆる人権を完全に享受できる世界です。
不正義の影響を最も強く受ける人々のリーダーシップと権利が中心に据えられ、尊重され、保障され、あらゆる意思決定に実質的に参加できる世界です。そのなかには、障がい者、先住民族、人種差別の影響を受ける人々、若者、トランスジェンダーの人々を含む、複合的かつ交差的な差別に直面する思春期の少女、女性、ジェンダー多様な人々が含まれます。
またそれは、保健、教育、その他の必要不可欠なサービスが無償で、高品質かつ利用しやすく、包摂的で公平、そして人々のニーズに即した形で提供される世界です。そして、不正義の影響を最も強く受ける人々自身が、自らの人生に関わる意思決定を形づくることができる世界です。
この世界では、国家と多国間機関がその責任と義務を果たしています。市民社会は地域に根ざしながらも国境を越えた連帯によって結ばれ、活力をもって発展しています。そして、ジェンダー平等エコシステムを構成するあらゆる組織や制度が、正義、説明責任、そして持続的な変革を実現するための条件づくりに貢献しています。
●注釈
「ジェンダー平等エコシステム」とは、ジェンダー平等の実現に影響を与える、より広範な主体・制度・運動・政策空間の総体を指します。具体的には、フェミニスト運動、女性の権利に取り組む組織、障がい者団体、草の根・地域主導のグループ、各国政府、多国間機関、開発援助機関、慈善財団、国際金融機関、NGO、研究者、アドボケーター(権利擁護活動家)、サービス提供者、政策関係者、そしてアライ(連帯する支援者)などが含まれます。これらの主体は、権力構造のなかで同じ立場にあるわけではありません。しかし、それぞれの意思決定、資源、そして影響力が組み合わさることで、何が可能になるかが形づくられています。
人権とは、すべての人が生まれながらに持つ、普遍的・不可譲・不可分・相互依存の権利と自由を指します。市民的・政治的権利、経済的・社会的・文化的権利が含まれており、具体的には、差別・強制・暴力からの自由、健康、教育、身体の自己決定、安全、生活、そして市民参加への権利などが挙げられます。国家は、いかなる差別もなく、平等にすべての人の人権を尊重し、保護し、実現する義務を負っています。
