ボローニャ大学講演
レオナルドの眼と人類の議会

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1994年6月、ボローニャ大学を池田大作先生が訪問。
記念講演で先生は、幅広い分野で活躍したイタリア・ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの孤高の精神性とたゆまぬ努力を紹介しながら、国連に求められる精神的基盤と世界市民を輩出する重要性を強調した。

※本記事は、動画の内容を抜粋し記事にしたものです。

ボローニャ大学での池田先生の講演

ボローニャ大学は、「世界最古の大学」「母なる大学」と呼ばれる。
大学の創立は1088年。それ以前に起源をさかのぼるという説もある。

そのボローニャ大学から、池田SGI(創価学会インタナショナル)会長へ栄誉ある「ドクター・リング」が授与された。

授与式の後、池田SGI会長の記念講演となった。
講演のテーマは、「レオナルドの眼と人類の議会」。

池田SGI会長は、レオナルド・ダ・ヴィンチを通し、より普遍的な視野から、国連とそれを支える世界市民の条件を論じたのである。

  

本日は、国連改革の具体的側面というよりも、この“人類の議会”を活性化していくための精神的基盤、その担い手たる世界市民のエートス(道徳的気風)といった理念的側面を、考察させていただきたいのであります。 なかんずく、貴国の偉大なる文化への敬意と感謝の思いを込めて、イタリア・ルネサンスの生んだ“万能の天才”レオナルド・ダ・ヴィンチにスポットを当てながら、「自己を統御する意志」と「間断なき飛翔」の二点に論及させていただきたいと思います。

レオナルド・ダ・ヴィンチの「自己を統御する意思」

イタリア・ルネサンスの巨人、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

彼は生涯を通し、画家・彫刻家・建築家・数学者・解剖学者・機械設計士など、実に幅広い分野で活躍した。
その業績があまりにも多岐にわたるため、今日でも「ルネサンスの万能人」としてたたえられる。

  

レオナルドは、独立不羈(ふき)の自由人であり、宗教や倫理の規範から自由であるのみならず、祖国も家庭も友人も知人といった人間社会のしがらみにも、決して束縛されぬ孤高の世界市民でありました。 いかなる挙措(きょそ)や出処進退にあっても、レオナルド・ダ・ヴィンチは、祖国愛や敵味方、善悪、美醜、利害などの世俗的規範には、ほとんど関心を示さない。それらを超出した境地を志向し続けている。 その超出を可能ならしめたものこそ、類いまれな「自己を統御する意志」であったのではないかと、私は思う一人であります。


そして池田SGI会長は、このダ・ヴィンチの精神性が、煩悩への執着から離れることを説く仏法思想に通じることを論じた。

  

こうしたダ・ヴィンチの“超俗”のかたちは、仏法で説く「出世間」の意義に親近しております。 仏法で説く「世間」とは、差別(違い)を意味する。 「出世間」とは、すなわち利害や愛憎、美醜や善悪などの差別を超出して、それらへの執着から離れる意義であります。


池田SGI会長は、国連が大国の利害や対立に左右されるのではなく、ダ・ヴィンチのごとく、屹立(きつりつ)した存在となることを訴えたのだった。

レオナルド・ダ・ヴィンチの「間断なき飛翔」

続いて、池田SGI会長が強調したのは、ダ・ヴィンチの作品の多くが未完成である点だ。

人間が鳥のように大空を飛翔することは、あまりにも有名なダ・ヴィンチの夢でありましたが、彼の魂もまた生涯を通して「間断なき飛翔」を繰り返しておりました。 そのすさまじいばかりの集中力。 にもかかわらず、こうした創作への執念とは裏腹に、ダ・ヴィンチの創作で完成されたものは、周知のようにごく少ない。 絵画においても、極端な寡作のうえ、そのほとんどが未完成のままであります。


ダ・ヴィンチは、一通り描き終えた作品でさえ、何十年もかけて筆を入れ直すことも少なくなかった。
かの有名な「モナ・リザ」も、実は未完成という説がある。

池田SGI会長は、そこに積極的な意義を見いだした。

  

いかに完成度を誇る傑作であっても、個別の世界の出来事である限り、未完成であることを免れえない。 人はそこに安住していてはならず、新たなる完成を目指して「間断なき飛翔」を運命づけられているのであります。 大乗仏教の精髄も、「月月・日日につより給(たま)へ」と、生命の本然的なあり方を示しております。


現実の世界では、人間であれ組織であれ、100パーセント完全であることはない。
だからこそ、よりよきものを目指して、不断に歩み続ける。
その歩み自体に価値がある。
池田SGI会長は、それを「間断なき飛翔」との表現で論じたのだった。

国連を「民衆の声を生かす人類の議会」へ

観念の世界でつくった理想形を掲げ、国連の限界をあげつらうことは簡単である。
しかし、本当の国連の改革は、現実から出発して、一歩一歩たゆまぬ努力を積み重ねる中にしかないことを、池田SGI会長は強調したのだ。

事実、池田SGI会長は1983年以降、毎年、世界平和実現のための具体的な提案をまとめた提言を発表してきた。

講演の終わり、池田SGI会長は、ダ・ヴィンチの生涯を貫いた精神性こそが、国連を支える世界市民の輩出につながるとして、こう結んだ。

  

「孤高の人」「独歩の人」であったダ・ヴィンチ的なるものが、世紀末のカオスの真っただ中にある今日ほど、このことを求められる時期はないでありましょう。 国連を軸にした、新たなグローバルな秩序の形成も、結局のところ、それを担うに足るコスモポリタン(世界市民)をどれだけ輩出できるかということに、かかっていると思うからであります。 ゆえに、世界市民の更なる力の結集によって、国連を「民衆の声を生かす人類の議会」へと、高めていかねばならないと思うのであります。 ご清聴、ありがとうございました。グラッチェ(ありがとうございました)。


世界市民の結集によって、国連が本当に世界平和のために尽くす「人類の議会」へと発展できるか。
「レオナルドの眼」は、今もその行方を見つめている。

  

  

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池田大作先生の足跡