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SGIが声明を発表「世界平和の創出へ核使用の防止を」

公開日:

発足50周年の「1・26」を前に

  

 SGI(創価学会インタナショナル)が、発足50周年となる2025年1月26日を前に、「世界平和の創出へ核使用の防止を」と題する声明を発表した。世界の各地域(アジア太平洋、ヨーロッパ、アフリカ、北米、中南米)で平和運動を進める国々のリーダーなどで構成される「SGI声明委員会」が中心となってまとめたもの。SGI会長である池田大作先生が平和提言などで訴えてきた「核兵器の先制不使用」の誓約や「核戦争防止センター」の設置の提案を踏まえつつ、核兵器のない世界の建設を呼びかける内容となっている。

  

SGIがICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)と共同制作した「核兵器なき世界への連帯――勇気と希望の選択」展(2023年2月、メキシコで)。池田先生が平和提言で訴え続けてきた「核兵器のない世界」の実現に向けて、同展は2012年以来、世界の90都市以上を巡回。平和を求めるグローバルな民衆の連帯を広げてきた

  

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民衆の力で希望の未来を開く

 本年で、第2次世界大戦の終結から80年を迎える。
 世界では今、ウクライナを巡る危機が長期化し、核兵器に関わる緊張も急激に高まるとともに、ガザ地区をはじめ中東地域における紛争も続いている。
 
 一般市民の犠牲の拡大だけでなく、人道状況も悪化の一途をたどっており、紛争の即時停戦を強く願ってやまない。
 国際社会による外交努力をさらに強めて停戦の実現を図るとともに、人道的な支援や生活再建のための支援を各国が協力して進めることを呼びかけたい。
 
 こうした各地での紛争に加えて、気候変動問題をはじめ、貧困や環境破壊といったグローバルな課題が山積しており、人類の未来に暗い影を落としている。
 
 それでも私たちは、悲観主義に流されることはない。
 SGI会長の池田大作先生が最後の平和提言(2022年1月)で訴えていた、「世界を覆う暗雲を打ち破って、希望の未来への地平を照らす力が人間には具わっている」との確信は、私たちSGIの同志の精神であるからだ。
  
 本年は、私たちSGIが、1975年1月26日にグアムの地において発足してから50周年に当たる年でもある。
 
 池田先生は、SGIが国連経済社会理事会のNGOに登録された年である1983年以来、毎年の1・26「SGIの日」に寄せて、40回にわたって平和提言を発表し続けてきた。
 私たちは、SGIの次なる50年の出発に際し、池田先生の平和提言を通じた“「生命尊厳の世紀」を築くための闘争”を継承する形で、今後、地球的規模のさまざまな課題を巡る声明を、継続的に発信していくことを決定した。
 
 そこで今回の声明では、池田先生の平和提言で中心的なテーマとなってきた、核兵器の問題に関して提案を行いたい。

  

被爆者の証言に込められた思い

 広島と長崎への原爆投下から80年となる本年、ニューヨークの国連本部で、3月に核兵器禁止条約の第3回締約国会議が、また4月から5月にかけてNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議の第3回準備委員会が開かれる。
 
 今、核兵器が使用されかねないリスクが、冷戦終結後、最も高まっている。
 核兵器禁止条約とNPTのそれぞれの会議を軸に、核兵器の脅威と非人道性に対する議論を深める中で、早急に実現を目指すべきものとして、私たちは二つの提案を行いたい。
 
 第一の提案は、「核兵器の先制不使用」の誓約の確立であり、第二の提案は「核戦争防止センター」の設置である。
 
 私たちが強く支持する核兵器禁止条約で明確に打ち出されているように、核兵器が二度と使用されないための「唯一の方法」は、「核兵器を完全に廃絶すること」以外にない。
 その大前提に立った上で、核兵器に対し“決して使用してはならない兵器”として明確に歯止めをかける第一歩として、「核兵器の先制不使用」の誓約の合意に向けて、NPTの五つの核兵器国(アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国)が対話を開始することを呼びかけたいのだ。
 
 「事態は今や切迫しております。今にして核戦争の勃発という危機的状況をストップさせなければ、人類の生存は大きく脅かされるでありましょう」
 「核兵器を絶対悪とみなし、核廃絶という遠大な目標を追求するのは当然としても、その前に核兵器のボタンを誰かが押してしまえばすべてが終わりです」
 
 これは池田先生が、平和提言の発表を開始する前年(1982年6月)に、第2回国連軍縮特別総会への提言で警鐘を鳴らした言葉である。
 当時は、ソ連のアフガニスタン侵攻(79年12月)をきっかけに、冷戦を巡るデタント(緊張緩和)が断ち切られ、レーガン米大統領が“欧州での限定核戦争もあり得る”と発言する(81年10月)など、現在の世界で懸念が強まっている“核使用のリスクの高まり”とも重なる緊張が、世界を震撼させた時期だった。
 
 この時の軍縮特別総会で、被爆者として国連の場で初めて演説し、「ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ、ノーモア・ウォー、ノーモア・ヒバクシャ」と力強く訴えたのが、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員の山口仙二さんだった。
 山口さんの叫びに象徴されるように、広島と長崎の被爆者の方々が原爆被害の実相を訴え続け、また、核実験や核開発で被害を受けた世界各地のヒバクシャや、多くの市民社会の団体の取り組みが広がる中で、核兵器禁止条約の採択が実現する(2017年7月)とともに、今日まで核兵器が再び使用されるような事態は何とか防がれてきた。

 しかし遺憾なことに、核使用のリスク自体は低下しているわけではない。むしろ近年は、紛争が続く中で核使用の可能性が取り沙汰されるなど、核兵器を“使用できる兵器”と位置付けようとする動きがあることが強く懸念される。
 先月、ノーベル平和賞を、被爆の実相を訴え続けてきた日本被団協が受賞したことは、長年にわたる尊い行動の功績を国際社会が高く評価した何よりの証左であるとともに、核兵器を巡る状況が著しく悪化していることへの強い警鐘が込められていたともいえよう。

  

2023年7月から8月にかけて行われたNPT再検討会議の第1回準備委員会(オーストリアのウィーン国際センターで)。SGIは他の団体と、「核兵器の先制不使用――核軍縮への道」と題する関連行事を開催した

核兵器廃絶に向けた転換の一歩として
「先制不使用の誓約」の確立が急務

  

核禁条約とNPTを軸に対話を促進

 私たちSGIもまた、“核兵器による惨劇を、地球上の誰にも経験させてはならない”との被爆者の方々と同じ思いをもって、広島と長崎の被爆証言集の発刊や証言映像の発信に取り組んできたほか、市民社会の一員として核兵器の禁止と廃絶を求める活動を続けてきた。
 
 その原点は、創価学会第2代会長の戸田城聖先生が1957年9月に発表した「原水爆禁止宣言」にある。
 核軍拡競争の激化に伴い、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が進み、地球上のどの場所にも核攻撃が可能となった時期にあって、戸田先生は、世界の民衆の生存の権利を脅かす核兵器は“絶対悪”であり、状況に応じて使用が可能な“必要悪”と考える余地を一切与えてはならないとの主張を行ったのだ。
 
 この宣言に基づいて私たちは、パグウォッシュ会議やIPPNW(核戦争防止国際医師会議)など多くの市民団体と連携を強めながら、核兵器の禁止を求めて、核兵器の脅威と非人道性を訴える展示や意識啓発の活動に努めてきた。
 また、池田先生が2006年に国連強化を巡る提言で呼びかけた提案を踏まえて、翌2007年からは「核兵器廃絶への民衆行動の10年」をスタートさせ、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)と協力して核兵器禁止条約の締結を目指す活動を広げてきた。
 そして核兵器禁止条約の締結を受ける形で、2018年から「核兵器廃絶への民衆行動の10年」の第2期を開始し、条約に対する国際社会の支持の拡大と、条約の理念の普及を市民社会の側から後押ししてきたのである。
 
 本年の前半に開催される核兵器禁止条約とNPTに関する二つの会議を通して、これまで国際社会で形づくられてきた“核兵器は使用してはならない兵器”とのタブー意識を、再び強めていかねばならない。
 そして、核兵器の非人道性に焦点を当てる形で、核使用を防ぐための措置に関して建設的な議論を行う必要がある。
 
 なかでもNPTの第3回準備委員会では、「核兵器の先制不使用」を巡る討議を進め、乗り越えるべき課題は何か、また、どのような制度的な担保が必要となるのかについて、積極的に意見交換することを求めたい。
 このテーマに関しては、池田先生が創立した戸田記念国際平和研究所が議論の喚起に努めてきたほか、SGIとしても、2023年のNPT再検討会議の第1回準備委員会で「核兵器の先制不使用――核軍縮への道」と題する関連行事を行ってきた。
 
 また先月、ノーベル平和賞の授賞式を記念する「ノーベル・ウィーク」の期間に、ノルウェーのオスロ大学で、同大学などと共に核兵器の先制不使用に関するワークショップを行ったところである。

  

ノルウェー・ノーベル研究所が主催し、SGIなどが後援したノーベル平和賞フォーラム。「平和のためのヒロシマ通訳者グループ」の小倉桂子代表と、日赤長崎原爆病院の朝長万左男名誉院長が被爆証言をした(先月、オスロ大学で)

  

武器を執ることで互いに生じる恐怖

 残念ながら、「核兵器の先制不使用」を誓約として確立することに対し、核兵器国はもとより、“核の傘”の下にある核依存国の間でも、いまだ慎重論が根強いことは否めない。
 かりに自国が先制不使用の誓約を守っていても、他の国がそれを突然破る懸念を拭うことは容易でないという理由からである。
 
 もちろん、他国の行動に対する不安を完全に拭い去ることは難しいかもしれない。それでも、核兵器の使用や威嚇に対して、現在よりも、不安の範囲は大きく狭まるのではないかと訴えたいのだ。
 
 かつて池田先生は、核兵器禁止条約が締結される半年前(2017年1月)に発表した平和提言で、仏法の洞察に触れながら核抑止論の問題点について、こう論じたことがあった。
 
 「釈尊の言葉に、『殺そうと争闘する人々を見よ。武器を執って打とうとしたことから恐怖が生じたのである』(『ブッダのことば』中村元訳、岩波書店)とあります。
 これは、二つの部族の間で水をめぐる争いが起きた時に、釈尊が述べたものと伝えられています。
 私が着目するのは、釈尊が対峙する人々の心の動きを見定める中で、“相手に対する恐怖があったから武器を手にした”のではなく、“武器を手にしたことによって恐怖が生じた”と洞察している点です。
 つまり、武器を手にするまでは、自分たちの水を奪おうとする相手への激しい怒りがあったとしても、そこに恐怖の影はなかった。しかし、ひとたび武器を手にし、何かあれば相手を打ちのめそうと思った瞬間に、人々の心に恐怖が宿ったというのです」と。
 
 時代は違っても、人間の心理自体は大きく変わるものではないはずだ。
 
 核兵器に関する政策変更を、釈尊の洞察に則した形で表現するならば、危険な武器をただちに捨て去ることはできないとしても、武器を常に手にしたまま“使用も辞さない構え”で対峙することをやめて、まずは互いを威嚇し合う状態から脱却することに当たるといえよう。
 
 このような先制不使用の誓約に関し、恒常的なものとしてただちに合意することが難しいならば、まずは「1年間のモラトリアム(一時的な停止)」という区切りで合意する形もあるのではないか。
 その上で、1年ごとに誓約を更新し、1年また1年と、各国が遵守する期間が積み重ねられていくならば、際限のない核軍拡競争を続ける誘因は次第に弱まり、核兵器国や核依存国のみならず、人類全体にとっての“核兵器の脅威”を大幅に低下させる道も開けるはずだ。

  

核兵器のない世界に向け、池田先生は多くの平和運動のリーダーと対話を重ねてきた。パグウォッシュ会議のジョセフ・ロートブラット博士との初会談は、1989年10月、大阪で。「平和への努力は、まさに“戦い”です」と述べる博士に、池田先生は「不戦の日を目指し、大いなる平和の『共戦』を続けていきたい」と語った

  

核戦争を防止する各国共同の機関を

 第二の提案として呼びかけたいのは、「核戦争防止センター」の設置である。
 
 先制不使用の誓約は、核兵器国や核依存国にとって、安全保障政策の見直しにつながる決断を必要とするものであることは間違いない。
 その点を踏まえれば、こうした国々が抱く不安や懸念を軽減するための制度的な担保をセットで考えることが、重要となろう。
 
 その一つの手掛かりとして、今回の声明で言及したいのは、池田先生が1983年の最初の平和提言で、核軍拡競争の停止や米ソ首脳会談の早期開催の提案と併せる形で提唱していた、「核戦争防止センター」の構想である。
 
 池田先生は、センターが担う役割について次のように具体的に述べていた。
 「軍事、政治、経済などの最高レベルの専門家が常駐する。そして設置された最新のコンピューターや衛星通信網をとおし、様々な情報の収集、分析を行い、危機的状況を素早くキャッチし、それに対する措置を検討する」
 
 このような核使用防止の措置を講じることが、まさに今、切実に求められているのだ。
 
 かつてアメリカとロシアの間で、こうしたセンターの設置が模索された前例もある。
 1998年、クリントン大統領とエリツィン大統領が、弾道ミサイル発射に関する情報を共有することで合意した。
 これが、2000年にクリントン大統領とプーチン大統領が署名した覚書の基礎となり、両国間で初めて軍事専門家を巻き込んだプロジェクトが立ち上がったのである。
 
 その後、政治状況の変化に伴い、プロジェクトは立ち消えとなったが、当初の計画では、モスクワに設立されるセンターに、両国の専門家たちが「毎日24時間」「週に7日間」常駐する態勢を整え、自国のミサイル発射警報システムから得た情報を交換することが目指されていた。
 
 プロジェクトの礎となったのは、「2000年問題」と呼ばれるコンピューターの不具合の影響が軍事分野にも及ぶことが懸念される中、核ミサイルの偶発的発射を防ぐため、アメリカのコロラド州に設けられた暫定的なセンターに、両国の軍事専門家が常駐した経験であった。
 その時の経験について、双方の関係者が高く評価しているように、核戦争のリスクを実際に防止する上で、核兵器国の関係者が同じ空間に、常時、居合わせる意義は、極めて大きいものがあると思われる。
 
 その意味で、「核戦争防止センター」は、誤情報に基づく発射を未然に防ぐことだけが目的ではない。
 対面による定期的なコミュニケーションを通して、各国間の信頼を醸成し、あらゆる形態の核戦争を防止する必要性についての共通認識を深める場となることが期待されるのだ。
 
 今から3年前(2022年1月)、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の核兵器国5カ国の首脳は共同声明を発表し、“互いの国を核兵器の標的とせず、他のいかなる国も標的にしていない”との方針を表明していた。
 この共同声明の精神を足場として、「核戦争防止センター」の設置に向けた対話を進めることを呼びかけたい。
 
 5カ国が同時に歩調を合わせることが困難な場合は、まずは、不測の事態を防ぐ安全装置の必要性に強い関心を持つ国同士が、先行する形で「核戦争防止センター」の活動を始動する方法もあるだろう。 
 また、センターの設置場所としては、国連の協力を得ながら、五つの非核兵器地帯条約(中南米、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジア)の主要な加盟国などを候補に検討することも、一案であると思われる。

  

現代文明の一凶を取り除く挑戦

 「先制不使用の誓約」の確立と「核戦争防止センター」の設置は、核兵器国や核依存国にとって、安全保障政策の見直しにつながる決断を必要とするものである一方で、非保有国にとっては、核兵器廃絶という目標からは“遠い一里塚”のように感じられるかもしれない。
 しかし、緊迫が続く現在の世界情勢に照らせば、人類の未来を暗転させないための焦眉の課題にほかならず、「平和と人道の地球社会」を築く上での重要な礎石となることは間違いない。
 
 かつて池田先生は2009年に、戸田先生が「原水爆禁止宣言」を発表した9月8日に寄せる形で、核廃絶提言を世界に発信した。
 その末尾に綴られていた次の呼びかけこそ、私たちSGIが“現代文明の一凶”である核兵器の問題の解決に取り組んできた思いが、凝縮されたものにほかならない。
 
 「核兵器廃絶への挑戦は『戦争のない世界』の基盤をつくる挑戦であり、その未曾有の挑戦に連なっていくことが“未来への最大の贈り物”になるとの誇りをもって、ともに手を取り合い、グローバルな民衆の連帯を力強く築いていこうではありませんか」
 
 私たちはこの精神を胸に、次代を担う青年世代を中心に、さまざまな文化や宗教を背景とする人々と対話を進め、協力をさらに深めながら、民衆自身の力で「未来への最大の贈り物」を生み出すための行動を広げることを、ここに固く誓うものである。